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ディテール:有賀製材所 栗15㎜ 本実板

床材は伊那市有賀製材所による無垢の栗を採用した。いや、使わせていただいたというべきか、必然性があってそこに納まったというのが心境に近い。

今回設計者によって、あらかじめ決まっていたこのフローリングは最高だった。もちろん、もっと安価な床材はいくらでもある、最近の複合フローリングは雰囲気だって悪くない。

ましてやこのプロジェクトは賃貸だ、ただでさえ厳しい条件の中で成立させるため、色々なものを諦めてきた。軽井沢の森の中、第1種低層住居専用地域に、借金して土地から取得し高性能賃貸住宅を新築する。誰もやっていないことは、できないだけの理由があるものだ。

でも厳しい減額の話題に一度だって上がることはなかったのは、設計者の強い意志によってだろう。そぎ落とし、もうこのまま何も残らなくなるんじゃないかという思いまでしてなお残したもの。

それがこの栗無垢フローリングだ。

自宅も無垢の栗フローリングなのに、正直に言うと賃貸の床のほうがはるかにいい。なぜだろう。「木目の豊かさ」や「色合いの美しさ」は同じ素材なのに、と考えてはっとした。

有賀製材所は豊富な森林資源を持つ伊那市で意欲的な取り組みをしている製材所だ。外材をやめほぼ県産材100%で、無垢の木をそのまま使い合板とか集成材を減らせるよう工夫し、3代に渡る事業を継続している。

この栗15mm本実板も、一本の丸太を無駄なく使いきるよう、長さだけなく幅までまちまちになっている。初めて目にする乱尺乱幅の床材。大工さんの手によって並べられると、表情が生まれてくる。

使い捨てよりいいものを長く使いたいし、作っては壊しまた作る社会を変えたいという、六花荘への思いがこもっているようだ。

40歳が過ぎ、人生どういうわけか軽井沢で共同経営者の設計者とふたり、6戸分の床にえごま油を塗る。

まだ寒い4月の夜、完成後のしんとした室内で乱幅の床に向かい黙々と仕事をしていると、木は丸いものですよ、自然に真四角な木なんてないんだと、フローリングが語り掛けてきた気がした。