大埜地の集合住宅のことは、六花荘を設計した暮らしと建築社、須永さんから紹介をうけたWebセミナーで出会いました。なぜそれまで知らずにいたのかが不思議なほどの、素晴らしいプロジェクトです。
そのWebセミナーで講演されたのがランドスケープを中心に設計を担当した田瀬理夫さん。プロジェクトの説明が始まると同時に驚きの連続でした。
公共の場、みんなが通える場所からの景色が地方からもなくなっている。
大埜地の集合住宅では、価値を占有しないことを目指した。鮎喰川のリバービューは地域のアイデンティティ。
都会は、違いを競うデザイン、付加価値とか言って全体がつまらないものになってしまった。
川を塞がない、パブリックスペースも、囲った中に作るのでなくて地域に開く。そこから見える景色は地域の共有財産。
集合住宅だけど中と外、垣根越しでつなげることで、みんなの価値が上がる。
田瀬さんの言葉、痺れますね・・・
一般的には建設地に良い景観があれば、一番高い部屋で良いビューになるような建物にします。そこに住まない人のことなんて、ほとんど考慮されていません。
言われてみれば腑に落ちることばかりですが、僕にとっては衝撃が大きく、すぐに「ひとの居場所をつくる」を読みました。もともと、西村さんの本は「一緒に冒険をする」を読んだことがありましたが、他は未読でした。
「ひとの居場所をつくる」を読み終えても、熱はやみません。関連書籍やネット記事を調べるとどんどん気持ちが高まってきます。
大埜地の集合住宅を見に現地へ行きたい、そしてできればプロジェクトの話を聞きたい。
うれしいことに機会はすぐ訪れました。田瀬さん西村さんと2泊3日神山で過ごし、ランドスケープを中心に神山町で有志が取り組んでいること、地方で暮らすということを考え、参加者のみんなと議論するプログラムです。
そういうことで2022年3月、神山町へ行ってきました。
六花荘プロジェクトはもう終盤だったので、この機会によって変更したことはありません。ですが、六花荘設計の須永さんは西村さんとの繋がりで以前現地を訪問したことがあり、六花荘の設計にあたっても少なくない影響を受けたと話してくれました。
大埜地の集合住宅は非常に注目を集めているプロジェクトで、様々な媒体で紹介されています。僕の文章では魅力が伝わるか自信がないけれど、以下のウェブ記事を合わせて読むと面白いのでぜひ読んでほしい。
100年後にも、山と川、人々の暮らしがあるように。徳島・神山町の、あたりまえであたらしい「大埜地集合住宅」の話。
神山町の課題と集合住宅づくり
近年IT企業の進出や、神山まるごと高専の設立など「奇跡の田舎」と知られる神山町ですが、移住、子育てに関連して以下の課題があったそうです。
・子育て世代が移住したくても住む家を見つけるのが難しい。
・小さな子どものいるお母さんが孤立しやすい。
・子どもたちの家が離れている、寄り道や放課後の選択肢がない。
そうした課題に対して神山町の人たちは解決策を考え、町の事業として集合住宅を建てることにしたのですが、素晴らしいのが最初に作られた4つの方針。
1.公営住宅法の外で町営住宅を作る
2.まちの人とまちの材料で作る
3.関係が生じやすい配置にする
4.公共事業を人が育つ機会にする
よいプロジェクトにはよい方針がある、こうした方針が生まれてくるのはどういう場だったのかについてはこちらの記事が詳しいです。
未来のことだから、まちの計画は、40代以下でつくろうと決めた。結果、2年連続の社会増へ
背景についてはネット記事が詳しいので、僕の目で見た現地の感想を以下に書きます。
配置について
田瀬さんは一般的な集合住宅にこうコメントします。
集合住宅じゃなくて、住宅がただ集まっているだけの「住宅集合」になっていないか。
その意図として開発は、それを行うことでその場所や周囲の環境が以前より良くなるものでないといけない。「土地を搾取しない」という信念があるそうです。
こうも仰っていました。
いかに床面積を稼ぐか、それが頭が良くて儲かるという風潮に支配されている。
これまでそれに疑問を感じたことなどあったでしょうか。みな建蔽率容積率ギリギリ上限を狙うのが当たり前だと思っているし、だれに教わったわけでなく使い切るのが腕の見せ所だと思い込んでいます。
不動産に関わるみんなが、自分は賢いしこれが得なんだと思うことをやってきて、その結果相続が発生したとたんに土地は細分化され、エネルギーをたくさん使う長持ちしない建物が建ち、つまらない風景ばかりになっている現状。
揃いもそろってものすごく愚かなことをしているのではないでしょうか。
当初の計画は、せっかくの川に背を向けて何をするんだろうということで、川に対する敷地の使い方から再考し今の計画にされていました。
コモンはGL+120mmと低く、落ち着いた佇まいとなっていて、室内の開口部からは地続きな印象をうけました。
住宅側は+800mmあげていて、コモンは窪んでいます。
輪郭をあいまいにすること。仕切らない、線引きしない点も、現地で目にすると効いていました。
建物について
すべて入居済みの集合住宅、静かに暮らしている環境を乱さないよう敷地への立ち入りはせず、隣接地から眺めました。写真も住居部分は撮っていませんが、Youtubeで建設の様子などは公開されています。
作り方の始まりから、まずいいなあと。
建設工事は町の木を伐りだすところから始まっています。
そう、こういうことがしたいんですよね。
もともと敷地に建っていたRC造の青雲寮は解体しましたが、産業廃棄物として敷地内に持ち出さず、敷地内分別後に破砕しガラとして集合住宅プロジェクトで使いまわしています。
前例がないことを土木、建築でやるのはとても大変です。ましてや日本の公共事業でやるのは、PMの本当に強い信念と説明能力がないと成し遂げられません。
地中内にある基礎も、支障のないものは解体しないという方針で進めたそうです。
一般的に構造設計は責任をとれないことを推奨はしません。だからか無難に仕事を進めると、解体工事で掘り出して産廃として処理しましょうということになります。みんな埋まっていても問題ないと思っているし、そちらのほうがエネルギーかけて掘り出し処分することで、地盤弱くして工期のバスよりずっといいとはわかっているけれど、公共事業でそれを証明するのは難しい。
行政は失敗できないから前例踏襲になりがちです、それを田瀬さんのように一貫した思考で真摯に仕事をする人たちが破り次のために前例を作っていく。
痺れます・・・
前述の通り写真はありませんが、木外壁の経年が味となるだろう建てもので、安心できる空気が流れています。
またこれまでの公営住宅の北側は薄暗くなりやすいそうですが(確かにそうですね)、大埜地の集合住宅では設備配置などが、いかにも裏という感じにはならないように工夫されていました。
集合住宅には熱供給も入っています。
これで暖房と給湯エネルギーの多くを地域の製材から出る製材くずでまかなっているそうです。
建物の断熱を頑張り日射取得に努めると、暖房に要するエネルギーはかなり削減できます。ですが住宅の使用エネルギーでもう一つ大きな用途である給湯は、断熱日射取得では減らすことができません。
各戸でや太陽熱給湯をつけたり薪ボイラーを設置するなどもできますが、やはり稼働率高くエネルギーの輸入を減らすことができるのは、このように地域熱供給にして熱源をゴミなどにする方法です。
こういうことをやるべきなんですよ・・・
仕様については設計事務所の解説が詳しい。
駐車場
地方の賃貸だと駐車場は各戸出入り口の近くに作るのが便利で喜ばれるため、ほとんどがそのパターンになっていますが、「大埜地の集合住宅」ではそうしていません。
駐車場用の2次製品を入れると、車中心の動きになってしまう。人車の分離とまで言わなくても駐車場のディテールを使わなければ、車のほうが気を使って動いたり停めたりする。
車止めをつけるとそういう挙動、ふるまいになる。
田瀬さんは藤が丘タウンハイツ(1978)のころから、このような考えで実践してきたそうです。
六花荘でも舗装はしないし、二次製品を使わないことにしていました。六花荘には各戸に1つEV用の充電器が駐車場にあり、雨や夜など見えにくく衝突すると困るので、車止めは必要だなと思い敷地から出たカラマツを活用しました。
コモンについて
いい空間なんですよね。
コモンを見たのは平日の授業時間中だったから、子どもたちの姿はなかったけれど、貼ってある絵や掲示物に普段の過ごし方が感じられて、ああここがあってよかったなぁという空間になっています。
ここで放課後一緒に遊んだり、勉強したり、本を読んで過ごしている。
いいですね。
実は六花荘でも設計初期にはコモンを計画していました、がコストの問題で早々に断念しています。
良質な賃貸から広がるコミュニティの核として欲しかったんですよね、コモンスペース。
六花荘では無理でしたが、次の次には作りたい。
以上、大埜地の集合住宅について現地を見聞きし、興味深く感じたことを書きました。
開発は、それを行うことでその場所や周囲の環境が以前より良くなるものでないといけないという田瀬さんの考え。土地を搾取しないということが拠り所になり進められた姿勢を細部まで感じた現地でした。
田瀬さんからは六花荘についてこんな言葉もいただきました。
いいアイデアがあっても、本当にやりたくてできる人がいないと形にならない。
背中を押されます。ありがとうございます。
そのほかNPO法人グリーンバレー、フードハブプロジェクトの話を聞いたり、上勝町ゼロウェイストセンターなどによって見るなどした学びの多い旅でした。神山町で今も起きつつある変化と様子はとても書ききれない。関心のある方はぜひ行って見てほしいです。
環境、歴史、自然に対する知見と洞察、一貫した姿勢による価値ある仕事に触れることができた3日間、幸せでした。
約一年たった今でもうまく言語化できていませんが、今後の人生にとって大きなものを得て生き続けています。